親から強制されるうちに気がついたら強迫性障害になっていた

30代女性、当時20代

 

発病までの背景

 私の両親は子供の躾に厳しく、なかでも身なりを整えることに対して異常なこだわりがありました。

 

 戦争体験者ということもあり、不潔にすると病気になると思い込んでいるのです。

 

 髪を伸ばすとシラミが湧くと言って、父に髪を切られていたので、いつもショートヘアでした。

 

 運動会や遠足から帰ってくると、玄関に入る前に靴と服を脱がされ、すぐにお風呂に入れられました。

 

 父は臭いに敏感で、母は埃や塵を気にするので、二人が納得する姿でいるのは私にとって大変な苦痛でした。

 

 周りの友人が泥だらけで遊んでいても、家に変えると叱られるため、私はいつも遠くから眺めるだけだったのです。

 

 惨めで寂しく、そして誰にも分かってもらえない気持ちは、年齢を追うごとに辛くのしかかっていきました。

 

私に現れた強迫性障害の症状

 子供の頃は口うるさい両親だと反抗していましたが、次第に理由が分かってくると、言われた通りに守るようになりました。

 

 ダニやしらみなどは、ある程度、清潔にしていれば深刻な問題にはなりません。

 

 それなのに、異常にこだわるのは、両親が戦時中にひどい目に遭ってきたからだと分かったのです。

 

 二人を安心させてあげなければと思い、私は1日に3回必ず服を着替えるようにして、髪も長く伸ばさないようにしました。

 

 メイクをすると服が汚れると言われていたので、スッピンでいるようにしており、今思えば、とても簡素な身なりでした。

 

 そのうち、私とは正反対でメイクが濃く、髪の長い女性に対して嫌悪感を抱くようになりました。

 

 周りを見渡せばそんな同僚ばかりで、職場では孤立しており、汚れると感じて会話もしないようになったのです。

 

 社会人になって2年目、派手な女性の上司に疎まれた私は、職場でいじめられて、結局辞めなくてはいけなくなったのです。

 

私が行った治療

 仕事を辞めてからの数年間、私は部屋で引きこもり生活をしていました。

 

 実家は田舎で噂が広まりやすいため、早く仕事を探して真面目に働けと何度も両親に叱られました。

 

 でも私にそんな気力は残っておらず、ひたすら部屋を掃除して、ダニやしらみが湧かないように努めていたのです。

 

 でもある日、ネットで強迫性障害について触れた記事を読み、症状が自分に似ていると感じました。

 

 なぜだか分からないけれど、猛烈に精神科医に相談したくなり、すぐに近くの心療内科を受診しました。

 

 診断結果は予想通り強迫性障害であり、不潔にすると不安になるという、重い症状だと判明したのです。

 

 自宅のお風呂やトイレは母が念入りに掃除しているのでOKでしたが、外の公衆トイレやスパなどは絶対に近づけませんでした。

 

 そのことを医師に相談したら、少しずつ慣らしていく方法を試すということで、週に1回は外出してトイレを使ってみることから始めたのです。

 

 両親と一緒だと気を遣うし、干渉されると上手くいかないので、自分ひとりで出かけるように指導されました。

 

 両親の目の届かない場所で、汚いものに触れることは、私にとって難しい挑戦だったのです。

 

 でも今考えると、とても勇気が必要なのによく頑張ったと思いますし、医師も私が焦らないように段階分けして指導してくれたので良かったです。

 

 行動のトレーニングに加え、抗不安薬を処方してもらうことにより、ダニやしらみ、バイ菌の存在を頭から消していくことを覚えました。

 

 治療の効果を感じたのは、ダニ除けスプレーを何十回も吹きかけ、粘着クリーナーで髪1本も残さず掃除していた癖がなくなったことです。

 

 やらなければいけない儀式のようなものが、ほとんどなくなったことで、疲労困憊していた心身が解放されました。

 

その後

 

 県外の会社に就職し、両親の元から離れて一人暮らしを始めたのは、20代の終わりごろでした。

 

 そろそろ両親と離れたほうが良いと思ったからです。

 

 一人暮らしを始めてからも、月に一度は必ず心療内科に通っており、不潔にする不安をなくすために治療を続けました。

 

 治療をしながら感じたのは、最もこの病気に有効だった対処法は、潔癖な両親から離れて暮らすことでした。

 

 忙しくて掃除ができなくても、洗濯物が溜まっていても、いちいち指摘されない安心感が私の症状を軽くしていったのです。

 

 治療を終える頃には、メイクもネイルもするようになりました。泊りがけで旅行へ行くようにもなりました。

 

 強迫性障害の原因のひとつに、親が子供に「恐れている何か」を押し付けることがあると思います。

 

 恋人や友人、配偶者にも、知らない間に押し付けてしまうことがあるので、今後も十分に自分の言動に気をつけたいと思っています。